それにしても語彙が欲しい

脚本家/フリーライター・森山智仁のブログです。ほぼ登山ブログになってしまいました。

DramaJamのチラシの裏面に書いた文章とその補足

DramaJamのチラシの裏面にはちょっと長めの文章を書きました。

 

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2002年から14年間、バッコスの祭という劇団を主宰していました。劇団を解散した約1年半後、小説家として、NPO法人HON.jp(旧:日本独立作家同盟)が主宰するNovelJamというイベントに参加しました。これは、作家・デザイナー・編集者がチームを組んで、3日間で短編小説を出版するというものです。

 

「わずか3日間で作ったものに値段をつけていいのか?」

 

決定稿を提出し、いざ販売する段階になって、ふと僕の脳裏をかすめた疑問です。僕以外にも、もっと早くから気付いていた人が何人もいたことでしょう。

 

普通に考えて、制限時間の中で作られたものより、きちんと時間をかけて作られたものを人は選びたいはずです。NovelJamは3日間開催ですが、テーマの発表は1日目の午後で、〆切は3日目の朝。つまり実質1日半という突貫工事で書かれた作品に、人は価値を見出せるものでしょうか。

 

外から見て価値があると思っていただくには伝える工夫と努力が必要ですが、作者自身の立場からは「価値はある」と断言できます。ここ数年、あの1日半ほど集中した時間はありません。もちろん数分〜数十分程度なら何度もありますが、10時間以上高いレベルで集中し続けたのはあの時だけです。もし1週間の猶予があったら、練度は上がったかもしれませんが、密度やキレは落ちていただろうと思います。

 

制限時間がある時、人は高いパフォーマンスを発揮します。DramaJamは脚本がないと役者が稽古できないので、作家にかかるプレッシャーはきっとNovelJam以上のものになるでしょう。どんなものが飛び出してくるか、今からとても楽しみです。

 

(念のため一点申し添えておきますと、僕は普通の演劇公演でありがちな「脚本が本番直前になってやっと完成すること」は非常に良くないことだと思っています。作家は精神的に追い詰められるポイントを公演初日でなく、稽古初日と思い定めるべきです)

 

DramaJamはチケットを購入すると本番だけなく開会式・執筆・稽古など、全ての過程を見学できます。ギュッと凝縮された創作の現場と成果をぜひ見に来てください。

 

企画・運営 森山智仁

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赤文字の部分について

補足します。

 

最近「脚本が遅くて満足な稽古ができないため」公演中止とか降板という事例を立て続けに見てきました。非常に残念な出来事ですが、ある意味真っ当です。稽古が少なかったならその分品質が下がるわけですから、強行するならチケットの価格を見直さないといけません。

 

脚本家は仕事が遅くても許される風潮を何とかしないと、演劇のクオリティは決して上がらないと考えています。役者側のリアクションも「しょうがないなあ」「待ってるよ」ではダメです。本番当日に遅刻してきたぐらいの勢いで怒るべきです。

 

NovelJamでは大急ぎでとにかく文字を埋めたという感じではなく、仲間と話し合いながら落ち着いて考え、納得のいくクオリティーのものを提出・出版できました。つまり人間は集中すれば約2日間で濃い1万字を書けるということ、すなわち1時間半〜2時間の脚本は1週間あれば書けるはずということです。半日別の仕事をしながらでも2週間あれば書けるはずです。公演の開催確定から稽古開始まで普通は2週間どころか数ヶ月あるはずですから、間に合わないわけがなく、単に集中していないだけ、あるいは、集中できる環境を整えていないだけなのです。

 

最近知り合った某劇団さんは「脚本が上がるまで劇場を取らない」という方針を取っていました。賢明だと思います。

 

 

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