ノベルジャム2018体験記【後編】
2泊3日の出版創作イベントノベルジャム2018に著者枠で参加してきました。
体験記その2です。
その1はこちら↓
moriyamatomohito.hatenablog.com
今回は「終わってから考えた“ノベルジャムにおける編集者”の攻略法」という形で書いていきます。
僕は編集に関しては素人(何なら著者としてもアマチュア)ですが、一応十数年間、劇団のリーダーをやっていた経験と、帰りの電車で一緒になった某審査員の先生の「編集者は何もしないほうがいい」という言葉から、ノベルジャムという特殊な環境下で編集者という立場の人が何をどうすべきか書いてみます。
※1 編集者が仕切ることを前提としています。
※2 主に著者との関係に焦点を当てています。
あくまでも「終わってから考えたこと」です。
あまり腹を立てずに読んでいただければ幸いです。
◆目的を決めて時間を使う
チームで何かする時には、まず“目的”を共有する必要があります。
ところが、ノベルジャムというイベントは「何が目的かわからない」のが特徴です。
一応「面白い小説を作って売ること」なのですが、他人同士が一丸となるにはアバウトすぎます。
そこで、僕が編集者なら「各人が最大のパフォーマンスを発揮すること」を“目的”とします。
作品が「面白いこと」や「売れること」はそれより下位に置きます。
「最終日の審査で受賞すること」はそれよりさらに下位に置きます。
ノベルジャム2018ではチーム決定からお題発表までなんと1時間ぐらい(だっけ?)の空き時間がありました。
僕はぶっちゃけ「この時間、何やねん」と思っていました。
酒も飲まずに初対面の人々と1時間も交流するなんて無理があります。
しかも、この時点では「交流する目的」も見えていないのです。
というわけで、僕が編集者なら、「各人が最大のパフォーマンスを発揮することが目的」と明言した上で、3人(著者2名・デザイナー1名)それぞれの仕事歴や代表作を提示してもらい、あとは無言で読み合う時間にします。
そして、テーマ発表まで残り5~10分ぐらいのところで切り上げ、「それぞれの魅力だと感じたところ」を具体的に伝えます。
1日目
お題が発表されてからプロット提出(初日の夜)までの時間は、いきなり販促に使います。
批判を恐れながら言いますが、この時間帯、編集者が著者に対してやれることは何もありません。
よっぽどセンスがあれば著者のブレーンストーミングをブーストできるでしょうが、かえって邪魔をしてしまう可能性が結構あります。
これは本文の執筆についても同じことが言えます。
「売れること」の優先順位は下位なのですが、待ち時間を有効活用するために販促をしようということです。
ノベルジャムには「途中経過を公開する」そして「最終的には販売プロセスも審査対象」という特徴があります。
よって、「才能のありそうな著者たちが才能のありそうなことをしている様子」をリポートすればいいのです。
運営が「途中経過を公開する」という仕様は――とても面白いんですが――これ自体が販促になるとは思えません。
普通に考えて、プロット段階のテキストなんて、その著者のもともとのファンしか見ないはずです。
初日から「販売」を意識して動けば大きなアドバンテージになります。
2日目
2日目もほぼ販促に使います。(どーん)
初稿を完成させてもらうことが最優先です。
途中経過に口を挟んでも何もいいことは起こりません。
というか、「各人が最大のパフォーマンスを発揮すること」が目的なので、「編集者が考える良作の条件」とか「売れる作品の要件」は無視したほうがいいのです。
無論、著者がサポートを求めているならサポートすべきです。
編集さんがいてくれてよかったなあと思ったのは「面白いです、さらにクオリティ上げていきましょう」ってスタンスだったこと。アマチュアで一人書いてると「面白いです」って言い切ってくれるのごく少数の友人しかいなくて、勿論それもうれしいのだけど、初対面で言われる破壊力は強かった。 #noveljam
— 飴乃ちはれ@『たそかれ時の女神たち』発売中! (@chihare) 2018年2月13日
「ここ困ってる! 助けて!!」に対して即レスをくださる編集者さんが神のようだ。何もかも終わったらとりあえず拝み倒そうと思う。同じチームの皆さん本当に包容力があって、私はひたすら甘えてる。#noveljam
— 寧花 (@yagi_4zuka) 2018年2月11日
↑こういう美しい世界もあったみたいです。
初稿や二稿が出たら「戻し」をするというスケジュールになっていますが、修正の要求は最小限に留めます。
ノベルジャム2018で講演をした三木一馬さんは「編集者の仕事とは作家に売れるものを書かせること」というスタンスでしたが、今回「売れること」の順位は下位に定めてあります。
よって、明らかな誤字・脱字や、どう考えても改悪にならず改善できる点しか指摘しません。
また、もう一方の著者は原稿チェックに参加させません。
デザイナーには「いいことしか言わないでください」とあらかじめ釘を刺した上で参加してもらいます。
僕は今回、チームのもう一人の著者・根木珠さんの原稿チェックに参加したのですが、ほとんど彼女の持ち味に抵触することしか言えませんでした。
この短い時間内で創作論を戦わせてお互い納得するなんてことは不可能です。
ならば最初から関わらせないほうがまだマシです。
こういうドライなことばかり言っていると、「だからお前は34にもなって無冠なんだよ」と怒られるかもしれません。(実際その通りかもしれません)
ただ、ノベルジャムは原稿の改善に欠かせない「冷却」の時間がほとんど取れないイベントです。
冷却タイムも置かずに適切な修正を指示するのはプロでも難しいのではないでしょうか。
3日目
作品が提出できたら、全力でプレゼンの練習をします。
ノベルジャム2018、はっきり言ってプレゼンの水準は低かったです。
みんなパワポとか奇策に頼り過ぎです。
聴衆相手に何かの魅力を伝えるという基本的なことができていません。
「全員疲れている」という状況に甘えているような雰囲気も感じました。
最低限、事前に自分のプレゼンを自分で録画して、これじゃ伝わらないと思った点を修正しておくべきです。
ぶっつけ本番の3分間で効果的なプレゼンなんかできるわけがありません。
少なくとも「自分的には完璧」だと思えるレベルになるまで練習すべきです。
人前に立つ適性がないという自覚があるなら、著者自身やデザイナーに委ねたほうが賢明です。
(そうしているチームはいくつかありました)
できれば、他のチームに対して「プレゼンの見せ合いをしませんか」と提案し、共同で練習します。
秘匿しておく理由は特にないはずです。
「人前」で実演しているかいないかで、仕上がりには大きな差が出ます。
「編集者が著者の作品をどれだけ魅力的だと思っているか」は、パワポの画面より、編集者の表情や声のほうが雄弁に物語ります。
本当にすごく魅力的だと思っていても適性や練習が足りないと全然伝わりません。
初日の自己PRのほうがまだいきいきしている――というのは、どういうことなんでしょうか。
ノベルジャムへの世間の関心は時間が経つにつれて薄れていきます。
3日目のプレゼンは販促のキモだったはずです。
どうも単なる「編集者の見せ場」とか「最後の山場」みたいな位置付けだったように思われてなりません。
◆目的が変わればやり方も変わる
“売れること”を最大の目的とするなら、何もかもが変わってきます。
前述のパターンで多くの時間を販促に費やしているのは「時間を有効活用するため」であって、厳密には「売るため」ではありません。
完全に市場のニーズから出発したら「創作って何やねん」という話ですが、「著者のやりたいこと」を理解し、「それならこういう市場に売り込める」と判断し、「この市場で売れるにはこうすべき」という指導ができるなら、「売れること」を第一に考えるのも面白いと思います。
“審査で受賞すること”を最大の目的とするなら、前もって審査員を分析しておきます。
(公表されているので事前の準備が可能です)
たとえば審査員にSF作家がいたら、著者にはなるべくSF作品を避けてもらいます。
自分がよく知っている分野は自然と厳しい目で見てしまうからです。
“面白いこと”を目的にするのが、本当は一番ライヴ感があり、企画の趣旨に沿っているような気はするのですが、面白い何かを生み出したいならそもそも編集者でなく著者として参加すべきだと思います。
次はガチで編集として参戦してみたい気もしてる。でも理想だけは高いから著者とぶつかりそう。全身全霊で書いてるものに対してアドバイスするなら、よほどの信頼関係がないと。1日2日でそれだけの信頼関係を築くのはやはり難しいから、せめて同じくらいの覚悟がないと。#noveljam
— 藤崎いちか@NovelJam2018 (@fujisaki1ka) 2018年2月15日
◆睡眠の取り方について
徹夜は能率が悪いそうです。
『デスノート』の夜神月も「睡眠不足も敵だ。健康や思考力をそこなう」と言っていました。
月くんが言うんだから間違いありません。
僕自身、絶対に徹夜はしませんし、ちょいちょい昼寝をします。
ただ、ノベルジャムという特殊な環境下で、編集者という立場だったら、睡眠をどう扱うかはかなり難しい問題です。
長い目で見れば睡眠はきっちり取るべきなのですが、いかんせんノベルジャムは短いです。
寝ずにゴリ押しすることを習慣にしているクリエイターが相手の場合、「寝ましょう」という声かけが必ずしも有効とは限りません。
習慣は一朝一夕で変えられるものではないからです。
それと、立場的な問題もあります。
というのは「自分がいつ寝るか問題」です。
原稿チェックやプレゼンをちゃんとやるには編集者も睡眠を取るべきです。
ところが、裏方であるが故に、「著者さんやデザイナーさんが起きているのに自分が寝るわけにはいかない」という心理が働くと予想されます。
何もできることがない局面でも「付き合って起きているのが編集者の責務」と感じてしまいそうです。
同様に、心の優しい著者やデザイナーなら、「まだ起きている仲間がいるのに自分が先に寝るわけにはいかない」と感じるかもしれません。
重要なのは、「眠い時は寝て大丈夫な関係性を早めに築いておくこと」です。
ただし、あくまでもクリエイターのスケジュールに合わせることが前提です。
原稿の完成が夜中になるなら、編集者のターンが深夜~早朝に来るのはやむを得ません。
状況次第では「夜戦に備えて早めに寝とく」という判断が必要になるでしょう。