「アートにエールを!東京プロジェクト」で大多数の劇団員が対象外になる件
少し前ですが、「アートにエールを!東京プロジェクト」というものが立ち上がりました。
概要と個人的評価
概要を引用します。
・プロとして芸術文化活動に携わるアーティスト、クリエイター、スタッフの方々から、自由な発想を基にした動画作品を募集し、専用サイトで配信します。
・動画作品を制作した方々には、出演料相当として一人当たり10万円(税込)を支払います(1作品につき上限100万)。
出典:東京都生活文化局
まず、終息が全然見えてこない今の段階で、都がアーティストへの支援を考えてくれたことはとてもありがたく思います。
文化庁のポエムに対して「つまり助けないってことね」と落胆の声が上がっていただけに、
宮田亮平・文化庁長官は芸術家出身。
— 東京新聞労働組合 (@danketsu_rentai) 2020年4月4日
あいちトリエンナーレ、コロナ対策など
本来なら行動が期待されるところだが…
🖊️「明けない夜はありません!」と
メッセージだけを出し
「ポエムはいらない」と言われている。
📎コラム「期待外れの文化庁長官」#東京新聞 4月4日夕刊文化面 pic.twitter.com/sGk6xIfnvZ
(行為者が異なりますが)アーティストにある程度まとまった額の予算を割くのは大きな前進であるように見えます。
しかし、残念ながら
募集規定によると、大半の劇団員・小劇場俳優は対象外です。
「主に芸術文化活動に係る収入により生計を維持している者」
https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/bunka/katsu_shien/files/0000001441/youkou.pdf
そんな人、小劇場の世界に何人いるでしょうか?
僕は運良く商業にも関わらせていただいていますが、「芸術文化活動に係る収入により生計を維持」は、実家住み・生活費入れずだったとしてギリギリあり得るかもという程度です。
文句を言っているわけではありません。
むしろ真っ当な線引きだと思います。
俳優・作家として活動するのは自由ですが、現金で支援をするなら「プロ」が対象になるのは当然であり、プロの定義が「それで食ってるか否か」になるのも当然です。
世間一般の目から見れば、「食ってない俳優・作家」は「売れない俳優・作家」ではなく、「余暇として演劇に携わっている人」なのです。
演劇人はムッとするかもしれませんが、立場を変えればわかるはずです。
「会社の仲間たちで野球チームを組んだ会社員」の職業は「会社員」であって、「野球選手」だと言い張るのは無理があります。
事実として、プロはアマチュアより、時間や経費、運や情熱を支払ってきたわけですから、こういう時に優遇されるのは当然であると考えます。
かと言って、アマチュアなんてこの機会にどんどん辞めればいいと思っているわけではありません。
誰でも自由に表現活動をやれることは豊かさの象徴であり、多様性は文化の根幹です。
「アマチュア」の演劇人を救うには
下手に「プロ」の基準を引き下げて現金を給付するより、飲食業界を救っていただくほうが遥かに有効です。
以前も書いた通り、「演劇人の多くが飲食でバイトをしているから」です。
moriyamatomohito.hatenablog.com
まともに稼げていないと、稽古場への電車賃(基本自腹)すら惜しくなります。
さらに言えば、金銭的余裕は心の余裕に直結しているので、バイトや貯金の心配をしながらオーディション情報を吟味するのは難しいものがあります。
「貧乏でも何でも演劇をやってやるんだ!」という強い心を持っている人も、おそらく「バイトは探せばいくらでもある」というのを前提としていて、稽古と並行してやれるバイトの求人が全滅したら心が折れかねません。
というわけで、行政には引き続き飲食への手厚い支援をお願いする所存です。
ちなみに
本プロジェクトについて書かれたYahoo!の記事に対して、こういうご意見があったそうです。
「この支援策は、動画制作というものをどの程度理解しているのか。都知事は「スマホで撮影したものでも」とは言っていたが、プロのパフォーマンス動画となるとそうはいかない。プロのステージパフォーマンスを動画化するというのは、素人がスマホで動画撮影をするのとはまったく異なる。日頃、自分では動画作成をしていない舞台アーティストが、動画作成を誰かに頼むとなれば、その実費だけで、10万円では足がでる」
出典:東京都のアーティスト支援プロジェクト ――そのエールは誰にどこまで届くか(志田陽子) - 個人 - Yahoo!ニュース
「スマホでおk」と書かれている点については、
- 今はスマホでも映画一本作れたりする
- そんなすごい気合い入れて「映像作品」を作らなくていい
- そんなすごい気合い入れず撮った映像でも凄さが伝わるようなものが対象
これらがないまぜになったものと解釈しています。
アーティスト支援に5億円
↓
対象が4000人程度で1人あたり10万なので、5億のうち給付4億、その他1億ということなのでしょう。
(その他1億も気になりますがいったん置いておきます)
これ、怒る人は怒るかもしれません。
オリンピックの予算も医療に回せという意見も見かけましたし、今は億を超える支出はすべて批判の対象になり得ます。
芸術にまったく携わっていない人、というか医療関係者からダイレクトに、「アーティスト支援は文化庁のポエムに留めろ」という主張があってもおかしくありません。
「演劇」のイメージは、すでに思ったより悪いのかもしれない
以前の記事で「イメージが悪くなると制度・動員の両面でまずい」と書きました。
TwitterのRT数なんて指標の一つに過ぎないとはわかってはいるものの、
電力不足で苦しんでいるとき、音楽家はたかが電気と言った。苦しむ人を人と思っていなかったから。
— Dr. Hideki Kakeya (@hkakeya) 2020年4月27日
畜産農家が苦しんでいるとき、劇作家は冷淡だった。農家を人と思っていなかったから。
新型コロナ流行で公演ができなくなったとき、音楽家や劇作家のために声を上げるものは、誰一人残っていなかった。
これが2万近く拡散されているのはそれなりのインパクトです。
平田オリザさんがTwitterで攻撃を受けているのは何となく知っていましたが、僕のタイムライン上に表示されていないだけで、どこかの界隈ではもしかしたら「4月末頃のパチンコ屋」並みに悪者にされているのかもしれません。
タバコやパチンコの業界は、嫌われることをある程度見込んでこれまでやってきましたが、「演劇」はそうではなかったはずです。
嫌われ経験値が足りず、過剰反応を起こしかねません(嫌われ慣れしているはずの人たちも一部過剰反応を起こしていますが)。
過剰反応は、客観的に見れば正当な擁護が付いても、攻撃者から見れば「軍団」あるいは「教祖と信者」です。
そして、外野の大半は「議論を全部読んで自分の頭で考えてジャッジする」なんて面倒なことをしません。
「なんか荒れてる」という印象を持つだけです。
「荒れてるならあんまりいい世界じゃないんだろう」という程度のふわっとした認識で、二度と劇場に行かない理由としては十分です。
攻撃・批判を受けた時の対処は「正論で返す」一択ではありません。
「無言ブロック」も選択肢に入れておくべきです。
ちょっと想像してみてほしいのですが、自粛警察との「話し合い」が果たして成立するでしょうか。
「主張はしておくべき」とか「黙っていたら潰される」という考え方もあるでしょうけれど、攻守のタイミングを見極めたほうがいいと思います。