それにしても語彙が欲しい

脚本家/フリーライター・森山智仁のブログです。ほぼ登山ブログになってしまいました。

キャラメルボックスの活動休止に思うこと

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僕が初めてキャラメルボックスを観たのは高校時代、『TRUTH』という作品でした。

当時、めちゃくちゃ感動しました。

終演後、

「おれもこういう人生を送りたい!」

「おれもああいう舞台を作りたい!」

という気持ちで胸がいっぱいになりました。

 

それだけ感動してなぜ「おっかけ」にならなかったか、不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、人間というのはそんなものです。

作品に感動することと作者(劇団)をおっかけたいと思うことはイコールではありません。

感動して満足ということも往々にしてあります。

おっかけになるかならないかは作品の質より本人の資質によるところが大きいと考えます。

 

さて、さほど熱心なファンにはならなかったとは言え、その後もいくつかの作品は観ていました。

およそ1〜2年に1本ぐらい観ていたと思います。

 

初めての観劇から(たぶん)5年後ぐらい、その日も客席は満杯でした。

異様なほどの熱気でした。

ほどのというか、正直「異様だ」と感じました。

作品はもちろん良かったのですが、「そんなに面白いか……?」というギャグで信じられないほどの爆笑が起こるのです。

作品そのものよりも客席の熱狂ぶりが目につき、一種の恐怖を感じました。


ギャグは何を言うかより誰が言うかのほうが大事です。

大好きな人の言うことなら面白いに決まっているのです。

その日の僕はちょっと引いてしまいましたが、キャラメルボックスは間違いなく、とんでもなくお客さんに愛されている劇団でした。

 

ここ数年の小説を原作にしている舞台もいくつか観に行きました。

たまたまかもしれませんが、かつて感じた客席の異様な熱気は鳴りを潜めていました。

サポーターズクラブのフラッグを振っている人がかつての5分の1ぐらいに減っていたと思います(きちんと数えたわけではないです)。

 

その変化を終わりの兆しと感じた……わけではありません。

個人的には落ち着いて観られるほうが好ましくありましたし、一つの団体や一人の人間に対する愛が何年もフルパワーで続くわけがないのです。

キャラメルボックスとファンの関係は、出会ったばかりの学生カップルから落ち着いた夫婦に移行したのだろうと思いました。

 

 
このニュースを見て思ったのは、エンタメを商業にする場合、

「落ち着いていてはダメなのかもしれない」

ということです。

 

劇団が良い作品を作ってファンがそれを観る。

本来はそれだけでOKです。

しかし、商売になると話は変わってきます。

 

僕はせいぜい250万円程度の予算しか組んだことがありませんし、キャラメルボックスの懐事情など何も存じ上げませんが、破産という事実から、「熱狂的な大勢のファンが何度もリピートしてグッズを買いまくらないと厳しい状態だったのだろう」と想像します。

 

今はエンタメにお金が使われない時代です。

もちろんアイドルのファンが給料のほとんどをぶち込んだりソシャゲ課金で人生壊れたりする人もいるわけですが、そういうのは極地的な事象で、有名アーティストがYouTubeでPVをフル配信したり出版社が公式無料漫画アプリを出したりしている時代です。

アイドルだってテレビで眺めているだけなら無料、ソシャゲも基本プレイは無料ですから、「基本無料」の先でどうやってマネタイズするか――というのが今のエンタメであると言えます。

 

一方、演劇は「基本有料」で、しかも高価です。

余暇の使い方として選ばれにくくなっているはずです。

年金をあてにしないでくださいなんていうお触れがありましたから、これからさらに財布の紐は固くなるでしょう。

 

演劇は「基本無料化」が不可能です。

――と書いて、今、「本当にそうだろうか?」という疑問が頭をよぎりました。

音楽や漫画も当初は無理だと思われていたはずです。

無理だという決めつけを捨てれば何か見つかるのかもしれません。

 

 

 

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