それにしても語彙が欲しい

脚本家/フリーライター・森山智仁のブログです。ほぼ登山ブログになってしまいました。

小説『おっさん消防士が最強の水属性スキルで次々と炎を消し止める』第3話

 

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おっさん消防士が最強の水属性スキルで次々と炎を消し止める

 

第3話 2ヶ所同時に火事が出た

 

 ぶるるるる!
 ぶるるるる!

 通信石に着信!

「グレン様、おはようございます!」
「うむ、カンナ君おはよう!」
「シャンゼリー通りの『ラコタス』で火災発生です!」
「了解ッ! 現場に急行する!」

 ラコタスは安くて美味しい大衆食堂である! あそこの『鮭のムニエル』は絶品だ! 思い出しただけでよだれが出る!

 ばさっ!

 と、耐火服をまとった時!

 ぶるるるる!
 ぶるるるる!

 再び通信石に着信!

「グレン君ッ! 出動要請だッッ!」

 声の主はギルドの副長、スナイドル氏である! そんなに怒鳴らんでも聞こえるわいと思いながら応答する!

「すでに別件で要請を受けたところであります! 他を当たってください!」
「ならん! ステブン・ジョップス氏の屋敷は君の担当地域だろう!」

 何だって? またあの豪邸か! 確かに担当地域ではある! だが!

「別件を解決してから応援に向かいます!」
「ならんと言っているだろう!」
「何故ですか!」
「別件とはどこなんだ!」
「シャンゼリー通りのラコタスです!」
「あんな貧乏食堂は後回しでいい! ステブン氏の屋敷に急行しろ!」
「お言葉ですが、副長!」
「口答えするな! いいから言われた通りにしろ!」

 口論している時間がもったいない!

 俺は通信石を耳に当てたまま、

「お断りします!」

 と言って部屋を飛び出した!

「むきーーーーッ!!!!」

 スナイドル氏が奇声を上げた! 青筋の立った額が目に浮かぶようだ!

「グレン君! 君は先日ステブン氏からのチップを受け取らなかったそうだな!」
「無論です!」
「あの一件でステブン氏はひどくご機嫌を損ねられたそうだぞ! 愚民に施しを断られたのは初めてだと!」
「では受け取るべきだったとおっしゃるのですか!?」
「ギルドとしてはそんなこと口が裂けても言えん! しかしだからあれだ要するにもうちょっと上手くやれということだ!」
「意味がわかりませんッ!」
「金持ちの機嫌を損ねるな! 何かと面倒なことになる!」
「副長! まもなくラコタスに到着します! 」
「ぷぎーーーーッ!!!!」
「ステブン氏の屋敷へは後ほど!」
「だめだだめだ! 先に屋敷へ行け! そしてステブン氏に謝罪しろ!」

 これ以上構っていられん!

 ぽいっ

 と通信石を道ばたに投げ捨て、

「グレン君! グレン君この野郎!! ほんぎょえええーーー!!」

 大騒ぎする通信石を尻目に、ラコタスの店内へ突入!

 ごおおおお!
 ごおおおお!

 むう、煙の流れから察するに、火元はキッチンか! だと思った!

 精神を集中しつつキッチンへ……踏み出した刹那!

(【パシフィック・ストライク】を撃っていいのか?)

 という迷いが生じた!
【パシフィック・ストライク】は体内の水属性エネルギーをほぼ全放出してしまう! 1日に1発が限度だ! 若い頃は2発以上撃てたこともあったが、今はもう無理だ!
 ラコタスは決して広くない! 水属性エネルギーをビーム状に放つ【ハイドロブラスト】で消火できなくもない! このあとステブン氏の屋敷に行くなら余力を残しておいたほうが……!
 その時!

「うおおおおーッ!」

 と、1人の少年が俺の横を走り抜け、甕に汲んだ水をぶちまけた! 火の勢いはまったく衰えないが、少年の必死さは伝わってきた!

「ううっ! 消防士さん、おいらのせいなんだ! おいらが火加減を間違えちまったんだ!」

 なるほど、彼はコック見習いか! 老舗のコックが火事など起こすだろうかと疑問に思っていた!

「頼むよ消防士さん! 火を消してくれ! おいらはこの食堂の味を覚えて、世界一のコックになりたいんだ!!」
「任せておけ少年ッ!!」

 俺は消防士だ! 目の前の火事を全力で消す! 迷うことなどない!

「ハァァァァ……!」

 いたいけな少年の夢を守るのだ!!

【パシフィック・ストライク】ッッ!!

 ぶわっ、しゅううううう!

 消えた!

 火元の付近は黒焦げだが建物は原型を留めている!

「もう大丈夫だ少年! 世界一のコックになってくれ!」
「あ、はい。そっすね。まぁできるだけ頑張りたいっす」
「……」
「なんかほんと、すんませんでした」

 ……うん、しょうがない! 【パシフィック・ストライク】はこういう技だ!

 ◆ ◆ ◆

「えいっ! えいっ!」

 ステブン氏の屋敷に到着してみると、カンナ君が必死で【アクアボール】を投げまくっていた! かわいいけど、やっぱり意味ない! 焼け石に水とはこのことだ!

「ああっ、グレン様!」
「待たせたな!」

 さぁ、愛しのカンナ君にいいところを見せたいが……

「……うぬぅ!」

 くそっ! 案の定、エネルギー切れだ! 【パシフィック・ストライク】は撃てそうにない!
 ならば、【ハイドロブラスト】!

 ……ちょろちょろ~

 何ィィィ!?

 ちょろちょろっとしか出ない! しょぼ過ぎる! お◯っこのほうがまだ勢いがあろう!

「ちょっと、君!」

 と怒りながらステブン氏が駆けてきた!

「愚民が! この愚民が! 遅れて来た上に何だそのザマは!」
「くっ、申し訳ありません……!」
「愚民風情が偉そうに、私の申し出を断ったりするからだ! ちなみに何故遅れたのだ!?」
ラコタスという食堂が火事で」
「はぁん!? この大富豪の邸宅よりもあんなクソ愚民の店を優先したというのか!」
「そうです!」
「愚民許すまじ!!」

 ステブン氏が持っていたステッキで俺をぽかぽか殴ってきた!
 痛っ! 痛い! やめてほしい!

「おやめください! 今は火を消しませんと!」
「うるさいうるさい!」

 ぽかぽか!

 痛い!
 とても痛いし、水も出ない! 万事休すか……!
 その時!!

 ガッキィィィィン!!!!

 ステブン氏の広大な屋敷全体が! 一瞬のうちに! 凍結した!!
 今まで燃えていたのがウソのように、氷のモニュメントと化している!
 まさか、この技は……!

「衰えたな、グレン・マスケット

 懐かしいキザな声! 凍りついた屋根の上に立つ、その男は!

「やはりお前か、ノヴァ・スプリングフィールド!」

 45歳! 同い年のはずなのにやたら若々しく見える! どうして老けないんだ化け物め!

「礼ぐらい言ったらどうだ?」
「ああ……助かったよ。ありがとう」
「フッ、どういたしまして」

 さらりと前髪をかきあげる! つくづくキザな野郎だ!

「ノヴァ、様……」

 う、おっ!?
 奴とは初対面のカンナ君が! あろうことか! 心なしか赤くなっている!!!
 あんな奴のどこがいいんだカンナくぅん!

 つづく!

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※この作品はカクヨムにも投稿しています。

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