それにしても語彙が欲しい

脚本家/フリーライター・森山智仁のブログです。ほぼ登山ブログになってしまいました。

小説『おっさん消防士が最強の水属性スキルで次々と炎を消し止める』第4話

 

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おっさん消防士が最強の水属性スキルで次々と炎を消し止める

 

第4話 火の鳥が飛んでくる・前編

 

「東部観測所より報告がありました。今年の【火の鳥】の飛来予測時期は、風の月11日から14日。警戒期間は9日から16日の1週間となります」

 ギルドの会議にてテキパキと説明するカンナ君。うむ、凛として美しい。

「どなた様も【火の鳥】対策は慣れておいでと存じますが、慢心することなく、今年も火災発生0件を目指し、一致協力して頑張りましょう。よろしくお願いします!」

 拍手が起こった。俺も力を込めて手を叩く。
 やっぱりカンナ君は、良い! 消防士としての能力はアレだが、かわいいしかっこいい。好きだ! 好きだあ!
 ちなみに、【火の鳥】とは! 毎年この時期に王都を横断する渡り鳥である! 大量の火の粉を撒き散らしながら飛ぶので、ギルドは国外の消防士も招いて特別警戒態勢を取る! 【火の鳥】の飛来は災害であると同時に、我々消防士にとっては、年に一度の祭という感がなきにしもあらずだ!
 地元消防士は元々の担当地域をそのまま受け持つ。そこに外部の消防士が増援として割り当てられる。
 俺の地区にやって来たのは……

「フッ、まさか君と組むことになるとはね」

 ノヴァ・スプリングフィールド! ライバルと書いて好敵手と読む! あっ、逆だ!

「少しは腕を上げたのかな?」
「とっ、当然だ!」
「心配だなあ。火の鳥対策は『消火』じゃなくて『防火』だからね」
「わかっている!」

 確かに、長時間降り続ける火の粉に対して【パシフィック・ストライク】は効果的ではない。【アクアシールド】を上に向けて展開する方法が一般的だ。【パシフィック・ストライク】に才能のほとんどをつぎ込んだので、ぶっちゃけ他の技は軒並み苦手なのだが! こいつにだけは負けたくない!

 はっ! 司会進行を終えたカンナ君が!

「ノヴァ様、よろしくお願いいたします」
「やぁ、よろしく。君みたいな綺麗な娘とご一緒できて光栄だな」
「まぁ、そんな……」

 くうううう! おのれええ!
 カンナ君は俺の助手だ! お前のではないぞ断じて!

「よろしくね」

 と言って、ノヴァはスッ……と、ピアノでも弾いてればよさそうな白い手を差し出した!
 カンナ君、はにかみながら! 握手に! 応じた!
 なんてこったちくしょおおおお俺ですら手を握ったことないのにああああ!
 俺、自分の毛むくじゃらの拳をギリギリと握りしめる!
 おいこらちょっと握手長くないか! ねえ!!

「……」

 はぁ、やっと終わった! この悔しさは【火の鳥】との戦いにぶつけるとしよう!

 ◆ ◆ ◆

 有志のご家庭の屋根にしつらえられた見張り台に3人で陣取り、右手に双眼鏡、左手にカンナ君の作ってくれたアンチョビサンドを持って待ち構える。
 もぐもぐ! 超絶おいしい! 毎日食べたい!
 盤石の態勢だ! さぁ、【火の鳥】たちよ、いつでも来い!
 と思ったら、来た!! バルバ山の向こうから【火の鳥】の群れ!

「来たぞ」
「僕が行こうか?」
「いや、一番槍は地元に譲ってもらおうか」
「いいとも。お手並み拝見だ」

 双眼鏡の中で、【火の鳥】の動きに合わせて各地の消防士たちが【アクアシールド】を展開していく。まるで雨雲と傘のようだ!
 近づいてきた。そろそろ俺も【アクアシールド】を……
 出そうとしたその時!

 ぶるるるる!
 ぶるるるる!

 通信石に着信! カンナ君が応答した!

「グレン様! コンコール通りの民家で火事です!」

 何ィィィ!? この時期は特に気をつけてほしいと通達が出ているのに!
 まぁでもしょうがない! こういうことがあるから応援が呼ばれているのだ!
 ノヴァが手袋をはめながら言った。

「火事の現場には土地勘のある君が行きたまえ。ここは僕が引き受ける」

 わかっとるわい指図すんなと思ったけど!

「了解! 頼んだぞ!」

 屋根伝いに行くほうが早そうだ。
 見張り台を出て助走をつけ! 大ジャンプ! ナイス着地!
 むっ? あたりが少し暗くなった?
 と、上を見上げると! ノヴァの巨大な【アイスシールド】が展開されていた!
 うぬう! 悔しいが見事だ!
 あちこちで拍手や声援が上がっている!

「すごーい!」
「消防士のお兄さん、頑張ってー!」

 うわあーいいなあいいなあお兄さんって呼ばれて! 俺はもうおじさんとしか呼ばれない!
 ちなみにノヴァのすごいところは! 水属性でなく氷属性というところである! 水は火を消せるが、氷は火に溶かされてしまう! 常識的に考えて相性は悪い! ところが奴の氷はめちゃくちゃ冷たいので火で溶けない! 氷属性の消防士は俺の知る限り奴一人きりだ!
 しかし俺も優秀な消防士なので、そんなことを思いながらも華麗に屋根から屋根へ飛び、コンコール通りの現場に到着した!
 ノヴァとカンナ君は今頃、

「君は僕が守るよ」
「はい、ノヴァ様……」

 なんてことになっているのだろうか!!
 ふんぬうううう! 耐えられん!
 このジェラシーを水属性エネルギーに変換する! ぎゅいいいいん!!
 さっさと終わらせて戻るぞ!

【パシフィック・スト】……

「!!!」

 あっぶね!! ついいつものクセで【パシフィック・ストライク】を撃ってしまうところだった!
 今日こそ慎重にペース配分をせねばならん! 幸い、ここの火事はボヤ程度だ!
【ハイドロブラスト】で難なく火を消し止め、俺は見張り台へと戻った!

 つづく!

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※この作品はカクヨムに投稿しています。

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