それにしても語彙が欲しい

脚本家/フリーライター・森山智仁のブログです。ほぼ登山ブログになってしまいました。

平田オリザさんへの公開書簡

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当方、過去に14年ほど劇団を率いていた者です。

現在はフリーの立場で脚本・演出をしています。

 

昨日、突然リプライをさせていただきましたが、

 この場で改めて賛同しないことを表明します。

 

平田オリザさんの2020年5月8日のブログ記事について

「業種によって必要な支援が異なる」というお話はごもっともです。

しかし、何回読んでも「たくさん作ってたくさん売ればいい」を正当化できません。

 

引き合いに出すにしても、

 産業構造、収益構造が違えば、その産業が危機に陥ったときの支援の方法も異なってきます。

 製造業への支援は、伝統的に利息の低い「緊急融資」という形がとられてきました。この方法が、もっともモラルハザードが起こりにくいからだと思います。企業に対する一律の支援となると、不正受給などが懸念されたり、企業努力を怠っている会社も救済されて自由経済のシステムが壊れてしまいます。

農業においては、食糧自給率の確保など、その公的な性格から、常に様々な補助金制度があります。さらに災害時には、農業用ハウスの修繕から土壌改良、種子の買い入れなどにも補助がつきます。これはおそらく、被害が明確なので補助が出しやすく、モラルハザードがおきにくいという背景もあると思われます。

いま、飲食業を中心に家賃を補助する動きがあるのも、同じような背景があると考えらるでしょう。インフラ的な部分を補助によって立て直すことで、回復時の自由競争のスタートラインを同じにする事は資本主義経済にとっても理にかなったことだと思います。

 もちろん、どの支援のあり方にも一長一短があります。90年代末には、金融を救うために、公的資金による資本注入が行われましたが、このときは国民的な議論が起こりました。

 では、サービス業の場合、どのような支援が適切でしょうか?

http://oriza.seinendan.org/hirata-oriza/messages/2020/05/08/7987/

最初からこのようにお話しになれば良かったはずです。

 

もしかして、みんながみんな政治的な理由で攻撃してきているとお思いではないですか?

あるいは、日本はアートに理解のない国だからろくに文章も読まずに叩きに来ているとお思いでは?

そういう人もいるのかもしれませんが、少なくとも僕は違います。

 

「製造業の場合は、景気が回復してきたら増産してたくさん作ってたくさん売ればいい」は、平田さんの中では「演劇の増産のしにくさ」を伝えるためにデフォルメした表現に過ぎないのかもしれません。

けれども、この表現が反発を招いていることに驚かれているなら、僭越ながら、思慮に欠けています。

 

「公演回数を増やせばいい」について

よく、「公演回数を増やせばいい」というご意見を聞きますが、日本の場合は劇場を借りている期間が決まっており、次に上演される演目も決まっています。せいぜい、夜公演しかない日に、何回か昼に追加公演を行うといった程度です。これもキャストやスタッフを休ませなければならないので限界があります。

http://oriza.seinendan.org/hirata-oriza/messages/2020/05/08/7987/

これは本気の提案ではなく、論旨を理解した人が嫌味を言っているわけですが、それすらお気づきにならないのでしょうか。

 

学生時代に拝見した『忠臣蔵』は本当に面白かったです。

文句なしに人生最高の観劇体験でした。

あんな風に人間の闇を書ける人が現状を正確に把握していないとは思いたくありません。

 

別のインタビューの記事では

「正直嫌な役回り」とおっしゃっていました。

www.cyzo.com

日本ではどうしても後回しにされがちな分野ですから、公的な支援を引き出すために、傲慢と批判されるのは覚悟の上で戦っておられるのでしょう。

ご心労はお察しします。

 

しかし、今回の「たくさん作って売ればいい」は曲解・切り抜きのしようのない失言です。

言い方次第では味方になってくれたかもしれない、心ある人たちさえ敵に回していると思えてなりません。

 

演劇の未来のために、取り消されることを望みます。

 

 2020年5月9日 森山智仁

 

 

付記:私事ですが

①「アートにエールを!東京プロジェクト」には応募しません。

プロ意識を持っていることとプロフェッショナルであることは別々の話です。

あれはプロフェッショナルのアーティストが利用してください。

僕は演劇関係の収入が減る分、来週から近所のスーパーでバイトします。

 

②近々、個人プロデュース公演の延期に伴う支援をクラウドファンディングで募ります。

「演劇界の権威に喧嘩売っといて何調子のいいこと言ってんだ」と怒られるかもしませんが、それはそれ、これはこれです。

 

 

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