『その話いつまでしてんだよ』改訂版&続編の冒頭を公開します
ノベルジャム2018(2月)山田章博賞受賞作品『その話いつまでしてんだよ』は、当ブログにて【改訂版】と【続編】を無料でお読みいただけるのですが……
原作を読んだ人にしかわからないパスワードをかけてあるので、BCCKSのように冒頭立ち読みができません。
というわけで、本日は両作品の冒頭を公開します。
改訂版『その話いつまでしてんだよ』
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あなたの書いたセリフでしょう。
地下の劇場から漏れ聞こえてくる声に、受付の俺は不満を覚える。
明敏な観客には伝わっているのではないだろうか――演技の細部から、迷いが。
「俺は死ぬ! まもなくこの世を去る! だがそれが何だというのだ」
架空の古代。悪政に苦しむ人民のために挙兵した地方の官吏。暑苦しさが売りのチャンバラ芝居。
「お前たちの人生は続く。これからも、しばらくは。時は有限だ。有益に過ごせ」
時節とは関係ない。愚直に、まっすぐに、人間の力強さを描く。
やると決めたんでしょう? 迷わないでくださいよ、今さら。
今は演劇どころじゃない? そう思う客なら今日そこにはいません。
貫いてくださいよ。俺たちがしおらしく縮こまっていたところで、昭和の終わりを先延ばしにできるわけじゃないんだから。
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続編『この話いつまでするんだよ』
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「お疲れ様です! 先日の出演オファーの件、その後いかがですか?」
時刻は朝の九時半。
俺が深夜バイトしてるの知ってるだろこの時間寝てるってことぐらいわかれよだいいち出演オファーをラインで送ってくんじゃねぇよ検討中と既読スルーの見分けがつかねぇだろっつーかチケットバック二十一枚目から一枚千円ってオファーって言えんのかよ時給換算したらいくらだよ
不機嫌で冴えた頭というのは始末が悪い。
言いたいことを全部飲み込んで、「もうちょっと考えさせて。ごめんね」と返信を送る。
まもなく、「了解です!」という返信が来たことを通知で確認し、未読のままにしておく。
すっかり目が覚めてしまった。暖房をつけてのそりと起き上がり、素早く半纏を羽織って、カーテンを少しだけ開ける。
椎名町駅徒歩十分、築三十五年のアパートの二階、拭き掃除など滅多にしない窓から見るいつもと変わらない景色。昨夜の雪は積もらなかったようだ。
テレビをつけ、めしを解凍して、卵をかけてかき回す。洗濯機も回す。埃まみれの洗濯機で服がきれいになる不思議。
午前十時。
「お誕生日おめでとうございます!」
祝いの言葉を最初にくれたのが居酒屋チェーンの会員ラインという現実。しかもきっと最初で最後だろうという予測。
かと思えば、「今日ヒマでしょ?」小菅からのライン。
飛びついてはみっともないような気がして、わざと十五分ほど空けてから、「ヒマだが?」と返す。
「じゃあ待ってますよ。サービスしますから」
このみすぼらしい五十一歳に祝福をくれる心優しい四十九歳に、二十時に行くとラインで伝える。
何をするにもライン、ライン。ライン河のほとりに寄せ集められる流浪の民。
バイトは休みだ。誕生日だから空けていたわけではなく、たまたまシフトが入らなかったに過ぎない。
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今年二回目の #NovelJam! #著者、#編集者、#デザイナー が集まって短期集中型で小説をチームで作り上げる出版イベントNovelJam。今年2月に開催し11月にもう一度開催いたします。前回同様、八王子での合宿型です。今回も前回同様に様々なドラマが待っているに違いありません。https://t.co/OAKMYPagFF
— 江口晋太朗 | SHINTARO Eguchi (@eshintaro) 2018年8月6日
11月のNovelJam2018への応募を検討している皆さんに、この作品や以下の体験記が参考になれば幸いです(*´∇`*)