それにしても語彙が欲しい

脚本家/フリーライター・森山智仁のブログです。ほぼ登山ブログになってしまいました。

「感染対策を徹底」という定型文に思うこと

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「感染対策」という語と「徹底」という語がほとんどセットのように使われていることに違和感を覚えています。

「たらちねの」と言えば「母」、「プリプリの」と言えば「海老」と同じぐらい、「感染対策」と言えば「徹底」です。

 

「徹底」を辞書で引くと、

底まで貫き通ること。内部に深く浸透すること。

物のすみずみまでゆきとどくこと。残るところなくゆきわたること。

とあります。

 

つまり「感染対策を徹底する」とは、感染が起こらないように隅々まで対策することのはずです。
しかし最近の「感染対策を徹底」は、できることは全部やるのレベルでセーフになっていると感じるのです。

 

ずっと家に一人でいればリスクは0、人を集めればリスクは必ず発生します。

本来、リスクの多寡に応じて対策を強化してこそ「徹底」と言えます。

 

感染対策と言えばすぐ思い当たるのは、

  • マスク
  • 検温
  • 換気
  • アクリル板

あたりです。

この4手で減らせるリスクを仮に40とします

 

リスクレベル40のアクションに対してはこの4手で「徹底している」と言えます。

しかし、リスクレベル100のアクションに対して、この4手では60のリスクが残ります。

これでは「徹底している」とは言えないはずです。

100あるなら、0にするのは無理でも、残り10ぐらいまで減らしてようやく「徹底」ではないでしょうか。

 

演劇を例に挙げると、公演当日(劇場)におけるリスクは基本的な対策で「徹底」と言えるところまで下げられるはずです。

しかし、稽古場のリスクは下げるにも限度があります。

テレビで見かけるような広大なスタジオを使えるカンパニーはごく一部で、密になるのが普通です。

つまり、普通の演劇公演の全行程において、感染対策の「徹底」は不可能ということです。

 

「徹底」の意味を考えず「徹底している」と言ってしまうのは、対策の目的が

  • 感染を起こさないため

ではなく、

  • アクションを認めてもらうため
  • 万が一感染が起きた時に許してもらうため

にすり替わっているせいだと考えます。

 

アクションそのものを否定しているわけではなく、僕自身も企画を抱えています。

「できる限りの対策をしている」という言い回しなら何の疑問もありません。

「徹底している」と言われると、「徹底とは……?」となる――という話でした。

 

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