それにしても語彙が欲しい

脚本家・フリーライター森山智仁のブログです。毎週土曜日(&気まぐれ)更新。

「VR演劇」の可能性について

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オンライン演劇について書いた記事に対し、

Twitterでこういうご質問をいただきました。 

僕なりの考えを述べさせていただきます。

 

 

VR空間での「演劇」

まず僕自身のVR経験値を明らかにしておくと、今のところ一回だけ、某メディア関係者向け内覧会でGANTZのVRを体験したことがあります。

また、Vtuberについては1人だけチャンネル登録している人がいます。

つまりどちらも「まったく知らないわけではないという程度」なのですが、VR空間でのVtuberによる「演劇」、成立するか否かで言えば、余裕で成立すると思います。

 

VRの臨場感

想像以上でした。

体験前は「言うても立体感がすごいだけの"映像"でしょ?」とタカを括っていたのですが、始まってすぐに「あっ、これは完全に"空間"だ!」と認識を改めました。

空間が存在し、そこに自分がいるような感覚がありました。

 

「首を動かすと視界が移動する」というのが大きいです。

視界を自在に動かすという事象だけを見ればモンハンでさんざんやってきたことですが、「ボタンを押した結果動く」のと「日常と同じ動作で動く」のとでは圧倒的な差がありました。

 

現実的な話

VRは世に出てから3年ほど「冬の時代」があったそうです。

www.coderepublic.jp

まさに今年からいよいよ普及していくだろうとの見方もあったようですが、コロナショックの影響も受けているでしょうし、大多数の人にとってVRは「耳にしたことだけはあるテクノロジー」、絵に描いた餅の状態が続くだろうと予想します。

とりあえず、VRコンテンツを摂取できる機器がNINTENDO Switch並みに普及しないとお話になりません。

 

そして、リアル舞台に代わるものしてVRを「開発」する予算と興味を、演劇界の上層部が持っているとは思えません。

しかし、普及してきたら誰かが「これで演劇できるんじゃね?」と考えるはずです。

 

MMORPGでの演劇

ハイスペックPCを必要とするオンラインゲームも、僕がスーファミをやっていた頃は「遠い未来の話」でした。

「FF11で知り合った2人が現実で結婚する」などという作り話みたいなエピソードがいつの間にか実現していたわけですから、VRMMOも案外近いところまで来ているのかもしれません。

 

知り合いに、あれは確かROだったでしょうか、MMO内で演劇をやった人がいます。

実際に公演を拝見したわけではなく、聞いただけのうろ覚えですが、メンバーに事前に台本を渡して、立ち位置やエモーションを稽古し、掲示板などで宣伝して、当日はエリアチャットでセリフを言っていく――みたいな感じだったと思います。

 

新しいテクノロジーが登場すればユニークな使い方をする人が必ず現れるので、VRMMOが普及したらゲーム内で劇団を作る人も出てくるでしょう。

 

「プロフェッショナルはVR演劇を考えているのか」というご質問への回答として整理すると、

  • (僕は演劇関係の収入はありますがプロフェッショナルではないです)
  • 演劇の手段、いわば新しい劇場空間として考えるには、まだ普及率が低過ぎる
  • 普及すればきっと誰かがやる

となります。

 

ただし

ゲームなり何なり、既存のVR空間を利用した演劇が登場したとして、既存の演劇の代替手段とまではなり得ないと考えます。

 

今ある「オンライン演劇」も、「一定の時間に役者・観客が集まってエンタメを起こす」という点を指して演劇的であるとおっしゃっている人がいました。

それはその通りだと思いますが、

  • 相手役の微細な表情、身振り、口調等々の変化と
  • 客席の空気感を受けて微妙に演技が変化し
  • それがまた相手役にも変化をもたらす

という舞台の本質は、オンラインでは再現されません。

 

聞いたところによると、ZOOM演劇のタイムラグ問題は「先回り」によって解決したそうです。

つまり、相手の演技を受けていません。

将来、技術的にタイムラグ問題が解消されたとしても、既存の「生放送」との違いは何かあるのでしょうか。

 

VRが「ゲームの空間を利用」から発展して「自由に創出できるレベル」になった段階を想像すると、色々と夢は広がりますが、ぶっちゃけ舞台畑の人は映像畑の人に勝てないと思います。

演劇で覚えたことをそのまま持ち込むだけでは「どう見ても映像作品なのに何故か演劇と名付けているもの」か、内輪受けの「ハイテクを駆使した演劇ごっこ」にしかなり得ません。

 

VRでの物語表現は、

  • たぶんアマチュアが自由にやり始めると思うけれど
  • プロとして表現を突き詰めたら結局、演劇ではなく映像の延長線上にあるもの、つまり「VR映画」になる

と予想します。

 

「演劇」とは?

もしかすると今後は、「演劇」という言葉が「舞台での表現」という語義を失って、「リアルタイムで物語を見せること」という意味になっていくのかもしれません。

というか、多くの方にとってはすでにそういう意味なので、「オンライン演劇」という、僕にとっては違和感の強い言葉が普通に流通しているのでしょう。

 

そうすると、「オンライン演劇」(VR演劇)という言葉はコロナ禍での一時的な現象でなく、あっさり定着することも考えられます。

 

そうなった時、「舞台の演劇」はおそらく、伝統芸能の一種になるでしょう。

コアなファンと行政の保護がなくなったら自動的に消滅します。

 

Vtuberの演劇に需要はあるか

最後に、Vtuberが演技をすることについて考えてみます。

  • 中の人は俳優や声優
  • モーションキャプチャー利用

で、相当臨場感のある「演劇」を上演することは可能だと思います。

 

ただ、

  • やる意味があるか
  • 需要があるか

を考えると大いに疑問です。

 

YouTuberやVtuberと切っても切り離せないのが「コメント」の存在です。

視聴者はかなりフランクにコメントを飛ばすことができ、他の視聴者がいいねしたり配信者が反応したりすることで、独自の一体感が形成されていきます。

家庭に普及するVR機器もおそらくコメント機能は標準装備となるでしょう。

 

その「交流」を軸に考えると、

  • 基本的に長い
  • 基本的に黙って鑑賞する

演劇は不向きです。

 

TVのニュースやバラエティーではTwitterでのコメントを見せていくものが増えてきました。

あれもなかなか面白いものですが、ドラマや映画では導入していませんよね。(もしあったら教えてください)

一定時間以上物語に集中する時は、他人のコメントは邪魔になるわけです。

ニコ動のコメントや5chの実況スレを見ながらアニメや映画を鑑賞するのが好きな人もいますが、テレビがデフォルトでコメントONにしたらクレームが殺到するはずです。

 

VR空間でも「コメントでわいわいしやすいもの」つまり「すでに多くのYouTuber・Vtuberがやっている、ゲーム実況やアホ企画」のほうが需要があるはずです。

「新作の物語」をVtuberによってリアルタイムで演じるのは、労力に対して見返りが少ないと考えられます。

 

なお、先ほど「一定時間以上」と書きましたが、尺の長さは非常に重要な要素です。

「Twitterでよくバズってる画像4枚で完結する漫画」に相当するボリュームの「寸劇」なら、Vtuberのコラボ企画として流行るかもしれません。

15分以上の長さになるなら、普通に映画として作ったほうがいいと思います。

 

追記

とりあえずググるという基本を怠り、こちらの存在を見落としていました。

time-space.kddi.com

こういう「演出上の技法の一つとして取り入れる」という形はまた別ルートです。

上で書いたのはあくまで「実在の劇場の代替物としてのVR空間」、つまり一から十までVRで完結する演劇について考えた話です。

 

ついでに

Vtuberの演劇は必然性や需要がないと書きましたが、ふと2.5次元のことを思い出して、「そうとも限らないかも……?」と思い始めました。

漫画・アニメ・ゲームのキャラをイケメンが演じるという、従来の演劇からは想像もつかなかったジャンル*1があれだけ盛り上がっているわけですから、もしかしたら必然性どうこうではなく、「んほおおお虹河ラキちゃんが演技してりゅうううう」と大枚を叩くような人が大勢いて、商業として成立するのかもしれません。

 

*1:厳密には、ああいうことをやりたい劇団は昔からたくさんあったわけですが、

  • 有名作品と契約を結ぶパワー
  • イケメンの人数
  • プロモーション能力

が圧倒的に不足していたので、なかなか出てこなかったのです。