4巻では加賀が高山病で座り込んでしまう場面がありました。
イリマーは「あくびなどの兆候が出ていたのに気付けなかった」と自分を責めています。
では、もしもっと早く察知できたらどんな対応があり得たのか、ちょっと検証してみましょう。
登山計画
まず、彼らの登山計画を標準速度・休憩無しで組んでみるとこうなります。
※ヤマケイでは辻山への道が選べなかったのでトラバースルートを選んでいます。
イリマーが座り込んでしまったのは赤い矢印の地点、辻山の山頂です。
言い方アレですが具合悪くなるには好都合です。
何故なら宿泊地である南御室小屋(緑の矢印)がすぐそばで、ここより標高が少し低いからです。
以下、気付いたタイミングによって、あり得る対応を考えてみます。
①苺平(辻山への分岐)のすぐ手前で気付いた場合
辻山には登らず、苺平からトラバースルートで南御室小屋に向かうのが良さそうです。
荷物は金田先輩にお願いします。
②苺平のかなり手前で気付いた場合
非常に難しい判断を迫られそうです。
地図を見る限り、大崖頭山付近(杖突峠)以外はあまりアップダウンがなく、ひたすら標高を上げていく道です。
時間には結構余裕があるので、荷物を金田先輩に持ってもらい、ペースを落として進む手が考えられます。
しかし、症状が非常に重いなら下りたほうがいいのかもしれません。
夜叉神峠小屋や夜叉神ヒュッテまで下りれば回復には期待できます。
しかし、いずれもテン場ありとは言え、あまり広くない要予約のテン場ですから、6人パーティーが突然行って「今日泊まらせてほしい」、「明日具合が良さそうなら辻山までピストンしたい」と言っても受け入れてはもらえないでしょう。
また、本編では南御室小屋の標高で休んだから順応できたのであって、夜叉神峠小屋で休んでも順応できない可能性があります。
下りるとなれば留まるポイントはなく、甲府駅まで引き返すことになります。
が、これは彼らにとって学校行事や観光ではなく、高所・長期山行への前哨戦です。
その目的を意識するなら、辛くても南御室小屋まで頑張って順応を試みるべきという気もします。
③夜叉神峠小屋の手前で気付いた場合
加賀の表情を見ると、兆しが出始めたのは夜叉神峠小屋あたりです。
さすがにこの段階で退くのは弱気過ぎるでしょうから、荷物の一部を金田先輩に持ってもらい、様子を見ながらペースを落として進むのが良さそうです。
ただ、これは「このまま行くと座り込んでしまうほど弱ってしまう」と知っているから出る提案であって、普通はあくび程度で処置しないでしょう。
そもそも
加賀は3巻において鴨沢ルートで雲取山に登った際、高山病の気配を見せていません。
つまり、体調や天候によるとは言え、標高2000mでダメな体質ではないはずです。
ところが、4巻では1800mより下であくびが出始めています。
これは甲府駅の標高282mから夜叉神峠登山口の1400mまでバスで一気に上がったためと考えられます。
おそらくその表現としてバスの車内で耳が「ポワーン」ってなっています。
鴨沢の標高550mから雲取山の2017mまでゆっくり上がるのは大丈夫だったけれど、バスのスピードで1000m以上一気に上がるのは負担が大きかったというわけです。
バスを降りて10分後に出発せず、アップに30分ぐらいゆっくり時間をかけて順応を促していれば、加賀の高山病はもっと軽く済んだかもしれません。
パーティー登山の魅力
①・②・③いずれのパターンも、前進する場合、
「荷物はきっと金田先輩が持ってくれる」
「仲間が励ましてくれる」
というのがパーティー登山の素敵なところです。
ソロなら頼れるのは自分だけです。
頭痛や眩暈がある状態で判断しなければならないわけですから、相当ツラい体験となるでしょう。
ただ、パーティーにはパーティーのリスクがあります。
実は4巻の中でも言及されており、また次回の記事で述べたいと思います。
追記:
新着動画です。
※チャンネル登録に関しては、恐れ入りますが、YouTubeのアルゴリズムの関係上、物書きの僕にでなく「登山」に興味のある方だけお願い致しますm(_ _)m