少し不思議なテント旅
舞台『13月の女の子』で奏(先斗ぺろさん)が背負っている大きなリュックは僕の私物です。
容積は実に100リットル、小柄な女の子なら誘拐も可能。
劇団時代から小道具の運搬で活躍してきました。
キャリーよりも収容力があり、背負ったまま自転車に乗れるのが強みです。
なんでこんなものを持っているかというと、20代の頃、一人旅にハマっていたからです。
登山とか山歩きとか本格的なやつではないです。
「川沿いに河口から源流まで」とか「小さな島一周」等、主に平地をのたのた歩く旅です。
カップ麺とコーヒー用に小型ガスコンロとコッヘルは持ちますが、食事は基本的に現地の飲食店やコンビニを頼ります。
一番最初にやったのは日本で二番目に長い川、利根川の「河口から源流まで」でした。
千葉県の銚子市から出発し、ちょっと信じがたい重さの荷物を背負って、約2週間で群馬県の湯檜曽駅に辿り着きました。
初日がいきなり台風だったり荷物が重過ぎたりして、何度かリタイアしそうになりながらついにやり遂げたことを記念し、このリュックは「利根川」と名付けられました。
テントはどこに張るかというと主に「大きな橋の下」です。
雨や視線から守られ、街灯で光も確保できるので快適です。
大きな橋の下が良い、と学ぶまでが大変でした。
私有地かもしれないところで怒られないかドキドキしながら朝を迎えたこともあります。
なお、怒られたことは一度もありません。
山のほうに行くと川原が石だらけになり、大きな橋も滅多にないので、ふつうにキャンプ場を使ったり、旅館に泊まったりします。
もとい、平地でもたまにビジネスホテル等を利用します。
キャンプとは言いにくく、サバイバルなんてとても言えない(大島では軽く遭難しかけましたが)この中途半端な旅の何が楽しかったのでしょうか。
それは、当時自分が「実家暮らしで劇団をやっていたこと」に起因します。
実家:保護されている
劇団:目的が明確でない
という状況に対し、一人旅は「全部自分で何とかしないといけない」そして「目的=ゴールが明確」です。
もちろん劇団には「ビッグになる」みたいなフワッとした目標はありましたが、そんなものはあってないようなもので、毎回の公演の成功・失敗も曖昧です。
シンプルに食って歩いて寝る数日間で、人間としての何かを取り戻していました。
最後にテントを使ったのは劇団バッコスの祭の第22回公演『押忍! 龍馬』の取材を兼ねて高知県を旅した時です。
その後、30歳になるまでにもう一度は行きたいと思っていたのですが、結局テントは押し入れにしまわれたまま、35歳になってしまいました。
今は一人暮らしで、やりたいことも明確(自分が書きたい小説を書くこと)なのですが、特に必要性などなくとも、またああいう旅には行きたいものです。