それにしても語彙が欲しい

脚本家/フリーライター・森山智仁のブログです。ほぼ登山ブログになってしまいました。

劇場での感染拡大を防ぐために脚本家・演出家に呼びかけたいこと

演劇公演の上演時間、1時間半を上限にしませんか。

 

無理だと言われると思いますが。

 

ネットワークの世話人の一人であるゴーチ・ブラザーズの伊藤達哉代表取締役は「今後、日本の演劇の形が変わっていくかもしれない」と話す。例えば、感染対策のため客席を満席にできないとすれば、それでも利益が出る作品や演出などを考える必要がある。公演再開後も、主催者や出演者に感染者が出た場合の対応など、検討課題はいくつも見つかるだろう。

新型コロナ:演劇界が「ネットワーク」構築 公演再開へ道探る :日本経済新聞

 

今後かなり長く3密を避けるべき状況は続くと仮定して、1時間半を上限とするメリットを解説します。

 

 

メリット①3ステ回しができる

密度を下げるために人と人の間隔を空けることが求められています。

劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン

 

1ステあたりの入場者数は大幅に減らさざるを得ません。

すると、今までの予算の組み方が通用しなくなります。

※公的資金が投入されれば劇場使用料が大幅に下がって解決するのかもしれませんがこの可能性はいったん置いておきます。

 

シンプルな対策として考えられるのは、

  • チケットの値上げ
  • ステージ数の増発

ですが、2時間の芝居を1日3ステ打つのは現実的ではありません。

図解します。

 

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上段が2時間公演の標準的なタイムテーブルです。

客出し・休憩を短縮してアップの時間を十分に取らなくても(取らないとダメですが)2時間×3ステージをやろうとすると退館時間に間に合いません。

上演時間が1時間半なら、3ステ回しが現実的になってきます。

1日に3ステやるというのは体力的に物凄く大変ですが、劇場使用料据え置きでステージ数を1.5倍にできるわけですから恩恵は大きいはずです。

 

この図を作っていて、

「劇場が利用可能時間を延ばしてくれればいいのか……?」

とも思いましたが、遅い時間に大勢の人の出入りがあると近隣に迷惑がかかりますし、役者・スタッフの体力面を考えると、やはり2時間×3ステは推奨できません。

 

メリット②映像と差別化できる

なんか、いつの間に「上演時間2時間」が標準になっていませんか?

3000円とか4000円とか、あるいはそれ以上のチケットに見合うボリュームが2時間なのかもしれません。

でも、本当にそうでしょうか?

 

2時間ドラマとか映画は2時間とかそれ以上です。

でも、あれらと肩を並べる必然性がありますか?

複合的な表現であるという意味では映像と演劇はよく似ていますが、媒体が違えば適正なボリュームは変わってくるはずです。

同じ映像同士でもYouTubeの動画はテレビより短いのが一般的です。

 

「映画より高いのだからせめて映画より見ごたえを」という考え方もあるかもしれません。

しかし、学生向け食堂じゃあるまいし、ボリューム=見ごたえではないはずです。

個人的に、1時間45分を超える観劇で中だるみを一瞬も感じなかったことはちょっと記憶にありません。

 

「映像よりコンパクトで高密度」

これを今後の強みにしていきませんか?

 

上演時間が長いことはもともとあまり喜ばれていなかったはずです。

moriyamatomohito.hatenablog.com

 

上演時間が短くなれば、

  • トイレの近さが真面目に不安な人
  • 長時間の閉鎖空間が苦手な人

など、潜在顧客も広がっていきます。

 

メリット③稽古がやりやすくなる

シンプルに考えて、台本が短くなったぶん稽古時間は短くできます。

僕の感覚では――本当にアバウトにですが――上演時間1分に対して1時間の稽古が必要です。


1コマ3時間の稽古なら、

  • 1時間30分の公演なら30コマ
  • 1時間45分の公演なら35コマ
  • 2時間の公演なら40コマ

となります。

 

スポーツと違って、稽古はやればやるほどいいというものではありません。

※くどいようですが色んな考え方があります。

長い稽古期間を設けても、序盤は集まりが悪かったり、真面目な人が後半で迷子になったりしがちです。

上限時間が従来より短くなれば、作品だけでなく稽古も高密度になるはずです。

さらに、稽古場や移動時間での感染リスクを下げられるというメリットもあります。

 

上演時間を短縮したらチケット代はどうするのか

2時間の作品を1時間半に圧縮した時、九分九厘、無駄が削ぎ落とされてトータルのクオリティーが上がります。

チケット代は据え置きでOKです。

 

2時間→1時間になると、さすがに値下げしたほうがいいと思います。

しかし、半額にまですることはありません。

別媒体なのですから映画館の安さを意識する必要はなく、手間のかかる高級エンタメとして、堂々とお代を頂戴していいはずです(というより、これまでもほとんどのカンパニーがそうしてきたわけです)。

2時間4000円が1時間になるならざっと3000円といったところでしょうか。

 

大きな壁となるのは

登場人物の数です。

 

10人とか15人以上出すと、

  • 楽屋や袖が密になる
  • 短い尺ではみんなに見せ場を(この考え方は好きではありませんが)作れない

といった問題が出てくるので、基本的には短時間化を提唱するに伴って少人数化を提唱します。

しかし、大人数でしか出せない迫力や描けない物語もあります。

※たくさん役者を使わないとチケットが売れないという事情もあります。

 

従来は、狭い劇場でも強引に20人とか詰め込んで気合いで乗り切るという手法が横行していましたが、今後は大きい劇場が使えるように頑張れという話になっていくのかもしれません。

 

やれるはず

劇団時代、僕の作品は確か一度だけ2時間を超えて、あとはだいたい1時間45分ぐらいでした。

周りより短いのを密かな誇りにしていましたが、改めて考えると1時間45分でもまぁまぁの長さです。

 

フリーになってから上演した『アラサー魔法少女の社畜生活』は1時間20分でした。

ステージチャンネルで無料公開しています)

このボリュームで前売3500円は(微妙に赤字でしたけど)適正価格だったと思っています。

「みんなこれに倣え!」みたいな言い方をすると傲慢ですが、1時間30分以内でしっかり起承転結やってバッチリ終わることは可能だという一例です。

 

席を間引いても、一つの空間に一定の人数を集めているという事実は変わりません。

滞在時間が短いほうが感染リスクは下がるはずです。

 

世の中はすでに変化してしまったわけですから、思い切って短くしていきませんか。

 

 

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