舞台芸術関係者の損失補填要請に賛同しなかった理由
5/14〜17に予定していた公演『夢が壊れるミックスグリム定食2500円』は延期しました。
5月14~17日に予定していた『夢が壊れるミックスグリム定食2500円』は、新型コロナウイルス感染拡大防止の為、延期します。楽しみにしてくださっていた皆様、申し訳ありません。いつか必ず上演するので気長にお待ちください。延期先は情勢が落ち着いてから役者全員と話し合って決める予定です。
— 森山智仁 (@bacoyama) 2020年4月6日
延期決定までの経緯
3/1(日) チラシ公開、予約受付開始。
3/11(水) 配役を発表。
3月中旬 客席の間引きや映像配信について考えながら原稿を進める。
3/26(木) 初版脱稿。公共の稽古場は閉館のため、主催者宅にて読み合わせ。週末の外出自粛要請を受け、日曜の稽古は各自在宅作業に変更。
3/29(日) 「台本の感想を言語化してLINEに書く」「衣装に使えそうな服を探してLINEアルバムに上げる」という二つの作業を指示。みんな感想をちゃんと書いてくれて感動する。
3/31(火) 延期を視野に入れたことをメンバーに報告。4/12(日)までとされている外出自粛要請の延長の有無が目安。
4/1(水) 休校延長等の報道を受け、4月上旬の稽古を中止。下旬スタートで日程を組み直す。
4/6(月) 緊急事態宣言の予告を受け、延期を決定。メンバーの了解を得て、劇場に電話、関係者に報告、公式情報を修正して発表。
3月上旬の時点では「きっといいほうに転がってくれる」、下旬には「たった4人の公演だし5月なら何とか……」と思っていました。
危機感がないと怒られるかもしれませんが実際そうでした。
今回の延期で受けたダメージは、
- 劇場使用料:未定(通常なら税別155000円)
- チラシ製作費:約55000円
といったところです。
まだ時期が遠かったのでこの程度で済みましたが(といっても大金ですが)、もしこれが1ヶ月違っていたら、
- 稽古場代:4万円
- 衣装・小道具費:4万円以上
- 稽古場までの交通費:各自自腹
このあたりも追加でかかっていたはずです。
規模の大きな公演なら各セクションもっと高額になり、
- 舞台装置製作費
等々も発生します。
舞台芸術関係者の損失補填要請に賛同しなかった理由
3月末に提出されたこちら、
「10日間で約1800人から賛同を得た」とありますが、この中に僕は入っていません。
Twitterで何度か回ってきたので賛同者を募っていることは知っていました。
裏切り者と言われるかもしれませんが、僕は賛同しませんでした。
その理由は「先に飲食を救ってほしい」と思ったからです。
飲食業界が死ぬと演劇人も死にます。
第一に、飲食業界、それも3月末の都知事の会見にて名指しで「行くな」と言われた深夜の店でバイトしている演劇人が大勢います。
大半の人が舞台の出演料よりバイトがメインの収入源のはずです。
第二に、深夜営業の飲食店のお客様が相当数、小劇場のお客様でもあるからです。
店員が役者であると知って応援しに来てくれる人もいますし、そもそも定期的に外食ができるような生活を送っている人でないとなかなか劇場には来られません。
小劇場のチケットは大抵3000円以上します。
エンタメとしては割高です。
第三に、飲食の入出金は「毎日」ですが演劇は「突発」です。
僕自身、十数万失ったのは非常に痛いですが、収入源は今のところまだ他にもあります。
毎日入ってくるお金が劇的に減った人たちのほうが緊急度は上のはずです。
もちろん、医療従事者等々、救われるべき人は多々いるわけですが、賛同を求めるツイートが回ってきた瞬間に思ったのが「演劇人が助かるためにも、飲食を差し置いて演劇が要求するわけではいかない」ということでした。
なお、差し置いてではないということや、僕なんかとは比べものにならないレベルの損害を被った演劇人がいることはわかっています。
また、後々出てきたマスク2枚あたりから、「そんなことに使う余裕あんなら賛同しときゃよかったかも……」ともうっすら思っています。
豊かではあるけれど
みんなが自由にエンターテイナー(広義)をやっている状態はとてもとても豊かです。
ドイツ政府はアーティストに対して「生命維持に必要不可欠な存在」とまで言っています。
しかし、今、日本で「必要」とされているエンターテイナーは、画面を通じて娯楽を提供できる、有名な人たちです。
#うちで踊ろう pic.twitter.com/kksFyuREtc
— 岡崎体育 (@okazaki_taiiku) 2020年4月6日
彼らの「舞台公演」が減った分の補填ならほとんどの日本人が賛成するはずですが、多くて数百人しか動員できない演劇人の舞台公演を補填するぐらいなら医療に回せと考える人が多いのではないでしょうか。
ヤフコメを引き合いに出すのは卑怯かもしれませんが、舞台関係者の会見の記事のコメント欄はほぼ非難一色です。
https://headlines.yahoo.co.jp/cm/main?d=20200407-00010000-jij-ent
一般人には「演劇人は世間知らず」という印象が強くなり、今後ますます演劇がやりにくくなったのではと危惧します。
イメージが悪くなるとエンタメは死ぬ
例えば、「パチンコ」に良いイメージを持っている人はどれだけいるでしょうか。
おそらくほとんどいませんよね。
あのレベルまでイメージが落ちると「聞く耳を持ってもらえない状態」になります。
僕はライター業の一部があちら関係なので、常識のある人や素敵な人もたくさんいることを知っていますが、まともな人間がまともなことを言ってもまともに聞いてもらえず、「いいから潰れろ」と言われるのがパチ業界です。
もはや新規はあまり見込めません。
既存のファンに支えられ、休眠層の掘り起こしを模索しながら、じわじわと規模を小さくしています。
演劇は今までのところ、世間一般の中では「ふーん、頑張ってね」という存在だったはずです。
これが今後、「いいから潰れろ」に変化しかねないと、ヤフコメを(ヤフコメですけど)読んでいて思いました。
イメージが悪くなると、制度面で何か訴えたい時に話を聞いてもらいにくくなるだけでなく、新規獲得が難しくなります。
劇場に行くのはダサいことという認識になってしまったら、チラシさえ見てもらえなくなるでしょう。
みんなが自由にエンターテイナーをやれる状況に早く戻ることを祈るばかりです。
最後に一言。
としま未来文化財団さん、ここの使用料もうちょっと安くなりませんかね。外出自粛要請出てる間はここでも厳しいけど、もし「自粛要請は解除したけど三密は避けて」の状況が長引くようなら、豊島区の劇団の最後の砦になり得るでよ。https://t.co/rx6v0CQr1W
— 森山智仁 (@bacoyama) 2020年4月4日
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