それにしても語彙が欲しい

脚本家/フリーライター・森山智仁のブログです。ほぼ登山ブログになってしまいました。

パーティー登山の魅力とリスク

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『山を渡る』は、解説が丁寧・理知的で、絵に勢いがあり、人物同士の掛け合いが楽しくて、一番好きな登山漫画です。

comic-walker.com

 

メンバーは6人。

3人しかいない三多摩大学登山部に運動音痴の新人3人が入部して、山の知識や技術をゼロから身に付けていきます。

パーティー登山の魅力をビシビシ伝えてくれる作品です。

 

が、最新の4巻にて、パーティー登山の「リスク」への言及がありました。

第19話、高山病で寝込んだ加賀について、

「決めただろ、治ってなけりゃ全員で下りる」

「こういう時大人数は不便だぜ、しょうがねえけど」

 という会話があります。

 

これは「パーティーはバラけてはならない」という原則を踏まえ、人数が増えるほどリタイアの可能性が上がるというパーティー登山のリスクを指摘するものです。

 

パーティー登山の魅力

そもそも、警察は「単独行は避けてほしい」とアナウンスしています。

いざという時に助けを呼びに行ける人がいる(場合もある)というのは大きな強みです。

パーティーなら励まし合えるというのもありますし、センサーが多い(危険・違和感を察知できる確率が上がる)というのも見逃せない点です。

 

しかし、パーティーにはパーティーのリスクやデメリットがあり、『山を渡る』4巻で指摘されていたのがその一つです。

 

パーティー登山のリスク①中止を躊躇してしまう

これが最大のリスクです。

悪天候が予想されるか微妙な線の時、単独なら自分一人の判断で気軽に中止できます。

しかしパーティーの場合、「せっかくスケジュールを合わせたのに」という背景や、「相手は行けると思っているかもしれない」という葛藤が介入してきます。

 

きちんとしたリーダーがいて統率が取れているなら問題ないはずですが、そんなパーティーばかりでもないでしょう。

気象遭難を回避する極意は「行かないこと」であり、パーティーだと単独より「行くほう」に流れがちです。

無論、慎重なリーダーか慎重かつ発言力のあるメンバーがいるなら、単独より安全です。

 

パーティー登山のリスク②リソース管理が最適化できない

パーティーのペースは「一番弱いメンバー」に合わせるのが基本です。

また、休憩は全員で一斉に取ることになります。

 

計画に大幅な余裕があればのんびり行けばいいんですが、実はゆっくり行くのが効率的とは限りません。

ペースを落とせば「体力」というリソースの消費は抑えられますが、「日没までの残り時間」というリソースは削られます。

単独なら「最も体力消費と時間消費のバランスが良いペース」を狙って歩くことができるのに対し、パーティーだと遅い人に合わせるしかないわけです。

 

休憩するタイミングと時間についても同じです。

単独なら自分が取ろうと思ったタイミングで、必要最小限の時間だけ休めばいいのですが、パーティーなら全員合わせないといけません。

 

余談ですが、昔の登山部や古いタイプの山ヤが初心者にやたら厳しい(偏見かしら)のって、「下位メンバーに合わせるしかない」→「自分の山を邪魔される感覚がある」からじゃないでしょうか。

 

パーティー登山のリスク③連れていってもらうだけだと経験値が入らない

単独行なら計画・実行・反省のすべてを一人で行うので、経験値は総取りとなります。

一方、パーティーの場合、どれだけ主体的に山行に携われるかは状況・個人次第です。

 

計画も現地での行動も全部リーダー任せで、特に振り返りもしない場合、残るのは「山頂を踏んだ」という事実だけで、経験値はほんの少ししか入りません。

同じ季節・同じルートをやるのでも、「自ら行く」か「連れていってもらう」かで全然違います。

 

もちろん、優秀なリーダーと行動を共にすれば学べることはたくさんあります。

しかし、学ばなくてもとりあえず行けてしまうのがパーティー登山の怖いところなわけです。

 

警察の「単独行やめて」という訴えも理解できます。

けれど、「パーティーのほうが100%いいんだ」と凝り固まるのもそれはそれでリスキーでは?

という話でした。

 

 

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